風景印を美しく押印してほしい。
風景印の押印には一定のルールがあり、基本的に自分で押せません。
だから郵便局員さんに押印をお願いする(しかない)のですが、ここでいつもわれわれ風景印ファンを苦しめるのが、『局員さんによって押印スキルと心がまえの程度に差がありすぎる問題』です。
もちろん局員さんも人間ですから、機械のように寸分の狂いもなく押印できるわけではありませんし、むしろそれが、印影の妙を生むのだと思っています。つまり「自分で押せない」ことが、風景印収集を面白くしている要素でもあるのです。
でも、できればやっぱり美しく押印してほしいんですよ。
私の場合の「美しく」というのは、「かすれたりつぶれたりせず、図案の細部まで鮮明に読み取れる状態」というイメージです。鮮明であれば、少々の傾きはよしとします。官白の完成度として考えた場合には、傾かずにまっすぐ押されていたほうがよいでしょうが、私はそれよりも鮮明な印影がほしいのです。
美しくなければ記念押印じゃない
問題なのは、鮮明云々以前に、記念押印の何たるかをまったく意に介さない方がいることです。最近では、記念押印という存在を知らないのではないかと思しき局員さんも少なくありません。窓口にいるパートさんや、ゆうゆう窓口のアルバイトさんの場合、まったく話が通じないこともあります。
そのような場合、ろくにインクもつけず、試し押しもせず、宅配便の伝票に受け取りのハンコをつくかのようにポンと押すんです。それでうまくいくわけがありません。最近は、黒活印(一般的な黒い消印)もインクをつけなくてよい浸透式が増えているので、それと同じだと思っているのでしょうか。
こちらは、何日も前から押印用の台紙に切手を貼って準備して、仕事の都合をつけ、休暇を取って、電車を乗り継ぎ、あるいは夜通し車を走らせ、お目当ての局を訪れるわけです。
……嗚呼、それなのに!
自分で押して失敗したなら諦めもつきますが、このやりきれない気持ちををどこへぶつければよいのやら。
郵頼になると、お客さんと直接顔を合わせないので、罪の意識がもっと希薄になるのでしょうか。インクを軽く一回つけて、何枚も連続で押したような仕上がりのものが返ってくることがあるのです。
近ごろは、新規配備や図案変更の際に、何千通もの郵頼が来ることがあるそうですから、そうした大量の押印をさばくのに、丁寧になんかやっていられない、ということなのでしょうか。封を開けたときに、依頼者がどれくらい落胆しているかなんて、考えてもみないのでしょう。
失敗の原因はほかにも……
とはいえ、局員さんの押印スキルと心がまえだけが失敗の原因とはかぎりません。
- 風景印を押印するためのとび色インク(肉じゅう)を染み込ませてあるスタンプ台(「まんじゅう」と呼ばれます)に、十分なインクが補充されていないか、馴染んでいない
- 反対にインクを補充しすぎている
- 印面にゴミが付着している
- 印面が摩滅している
こんな場合は、どんな熟練局員さんでも美しくは押印できないでしょう。
これらは、基本メンテナンスの問題です。風景印を備えている以上、局として配慮すべき事項だと思いますが、忙しさにかまけてなのか、予算をケチっているのかわかりませんが、大して使わない風景印なんか、あまり重要視していないのかもしれません。
より美しい記念押印のためには
以前、とても美しく押印してくれた局員さんに、きれいに押印するための秘訣はなんですか? と聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。
「ただ練習あるのみです!」
営業時間中はなかなか時間が取れないので、業後などに暇を見つけては、練習していたそうです。遠方から押印に来られるお客さんをがっかりさせられないですから、ともおっしゃっていました。結局、そういうことなんですよ。
日ごろから印面をメンテナンスしてよい状態を保つように努め、何度も練習して押印技術を磨く、そうした努力もなしに、美しく記念押印なんてできるわけがないのでした。
そんな努力の結果美しく押してくれるなら「記念押印手数料」を徴収されてもかまいません。それできちんと押してもらえるなら、安いものです。
また、「記念押印マイスター」みたいな社内資格を作って、どの程度のスキルを持っているのかを明確にするのはどうでしょう。かつての「郵便競技会」みたいなものはもうやっていないのでしょうか。
一方で、京橋局に設けられる特印の押印会場とか、切手展の会場などで押印してくださる方の押印スキルは本当に素晴らしく(押印ボランティアという方もいらっしゃるようですが、どのような経歴の方なのでしょう?)、こうした方々に指導してもらったらよいのでは。
窓口で受け付けた局員さんが、「風景印お願いします」と奥のデスクにいる局長さん(と思しき人)に、押印をパスすることがあります。そういう方は押印に慣れたベテランが多いので、こちらは心のなかで「よっしゃあぁぁぁ!」と叫んでいるのですよ。
「芸術的押捺」への道
さて、日ごろの鬱憤がたまっていたのか(笑)いろいろ書きましたが、念の為に申し上げると、激しく落胆するようなケースは、ほんの一部ですよ。多くの局員さんは、苦手そうにしながらも、がんばって丁寧に押印してくれますし、郵頼が何千通あろうとも、1枚ずつ真心を込めて押印してくださる局だってたくさんあります。
それどころか、郵頼で失敗したときには、局長さん名でお詫びの一筆を同封してくださったり、不明点についてわざわざ電話で連絡をくださったり、ときには自腹を切って新しいはがきに押印しなおしてくださったりすることさえあり、かえって申し訳なく思うことも。
おそらく、無茶な押印要求(自分で押させろとか)や、過度なクレーム(弁償しろとか)を言う客もいるのでしょう。そうしたことがトラウマになって、どんどん記念押印が嫌になっていく悪循環もないとはいえません。
押印を依頼する側にも、最低限の配慮や気遣いは必要です。時間に余裕を持って訪問するとか、混んでいるときはなるべく避けるとか、一人で何十枚も郵頼しないとか、できることはあるでしょう。
最後に、戦前の雑誌に掲載された、風景印の押印にまつわる、コラムの一部をご紹介しましょう。執筆者は奈良郵便局(当時)の関係者で、押印する側に対して問題提起をしています。
風景入スタンプの押捺嗜好及び蒐集者の心的要求に対し、関係者が存外無関心であることは、日々押捺の要求に応ずる中、台紙の特異、考慮せる切手の貼付場所等の優れるもの約四五割(平均五十として)を示せる例を見ても、歴然たる事実である。よって、押捺関係者の責任の重大を痛感せざるを得ないのみならず、芸術嗜好の愛好を目的とせる芸術―――それを尊重する意味からしてもこのことは重大な問題である。
中西純「風景入日附印の芸術的押捺」
『逓信協会雑誌』1934年12月号、逓信協会
1934年といえば、風景印の創始からまだ3年しか経っていません。にも関わらず「関係者が存外無関心」とは。「押捺関係者の責任の重大」は現代も変わりません。
関係者の皆さん、いろいろな業務でお忙しいとは思いますが、80年後の現代も「蒐集者の心的要求」に対するご配慮を、何とぞよろしくお願いします!
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Comment
コラム読みました。
確かに「これだったら自分の方が上手に押印出来るのに」という場面には度々出くわしますね。
ただ、局によっては「本当はダメなんですけど」と言いつつこちらに押印させてくれる所もあります。
だいたい10局訪問すると2~3局は押印させてくれますね。
いっその事、押印については自分自身で押印するようなきまりを作ってもらいたいですね。
それで失敗しても自己責任になるので、局員の方に余計なプレッシャーやストレスを与える事もなくなりますからね。
思わず、心の中で分かります!っていう状況が綴られていたのでコメントしました。
「『局員さんによって押印スキルと心がまえの程度に差がありすぎる問題』です。」これについては、良くわかります。
局長もどんどん異動する時代ですから局への思入れが薄くなっていることも実感します。パートやバイトに任せる局の方針はどうかと思います。
そんな中でも、風景印へのこだわりを持っている局では、日付も予め変えてあったり(大抵、その場で変えてますね)、窓口の局員(若くても)も慣れている感じで局長自ら風景印の説明文作成して渡してくれることもあります。
ミスってから、どうしましょうか…と局員や局長が茫然とするくらいなら、そうならないようすれば良いことなんですけどね。その局だけ改善しても意味がないので再三、局全体の問題として改善して下さいと自身も言っていますが。
酷い押印の仕方をして平然と悪びれる様子もない時の場合、自身は、必ず指摘(クレームと言えばクレームですが、サービスの提供が局によって異なる、人によって異なることは給料を貰って押印している局員には当然だと考えているので)します。
目の前で相当な力を込めて押印する局員がいますが、心の中で「ダメ、ダメ!!そんなに力いれないで!!」と何回叫びそうになったことやら
局から来訪者に押印させる場合(目の前であれば押印して良いとのことであるが局によって対応が違うがそのあたりも明確にして欲しい所です)
1.磨滅、摩耗している(誰が押印しても奇麗にならない)
2.変形印
3.面倒、窓口混雑
4.納得の行くように押印してほしい気持ち
(↑失敗しても文句を言われない策かもしれないですが)
などがあげられるでしょうか
失敗されない対策として、あまりプレッシャーをかけないために、ノートのような複数の風景印が並んでいるような様式にはしないようにしています。
※逆に、上手に押印しなければという気を起こさせる場合もありますが
しかし、葉書一枚単位や台紙一枚単位ですと、失敗しても52円で済むしという軽い気持ちで見られて案の定失敗されたこともあります。
なかなか、有効な手立てがみつからず悩みの種です。
郵頼の方が、丁寧な処理をするのかなと思っていましたが、この記事を見て驚きでした。平然とこれで返送する神経が分かりません。
窓口押印依頼で切手に(ギリならまだしも)全く被せる気の無い押印が何度か遭遇しましたが、何のために切手を貼っているのか理解もしていない局員が窓口に立っていることが腹立たしい以外に無かったですね。業務の一環なのだから正直、煩わしければ風景印を設置しなければ良いことですしね。
風景印は図案更新などは記載されますが、摩耗磨滅状況は分からないことが一番ネックです。
>窓口で受け付けた局員さんが、「風景印お願いします」と奥のデスクにいる局長さん(と思しき人)に、押印をパスすることがあります。そういう方は押印に慣れたベテランが多いので、こちらは心のなかで「よっしゃあぁぁぁ!」と叫んでいるのですよ。
→両手使い独特な押印の仕方をする人や押印する用紙を天地逆にして狙いを定める人色々いますが、局長が押印して下手くそだったときの落胆感もありますが。
これからもこちらのブログについて楽しみに閲覧していますので頑張ってください。長々失礼しました。
>細見さま
コメントありがとうございます。本当ですね、局員さんに余計なプレッシャーをかけたくはないですよね。多少面倒かもしれませんが、自分で押すのか局員さんに押してもらうのか、都度選べるようにしてくれれば一番いいんですかねえ。あまり規則がゆるくなると、それはそれでありがたみ?が減るというか…なかなか難しいところではあります。
>波照間さま
熱いコメントありがとうございます!同じようなお考えの方がいらっしゃって安心しました(^^) その場で風景印の日付を替える(「更植」というらしいです)ケース、多いですよね。でも、毎日始業前に更植と点検をきちんと終えている局も少なくないので、こういうところにも姿勢が表れているのかもしれません。
たまに、私が押したものを見て「私より上手ですねー」とおっしゃる局員さんがおられますが、いやそれじゃだめでしょ、と思うんです。客よりあなたがたのほうが上手でなくっちゃ!と(もちろんお世辞かもしれませんが)。
わたしたち収集家がいつもどういう気持ちなのか少しでも伝わればいいな、と思いますし、ぜひ局員さんの本音も聞いてみたいですね。
いつも楽しく読ませていただいています。
おっしゃることに共感します。
しょせんこちらは趣味でやっているので、押し方も含めての「味」だと思うことにしています。あまりひどいときは、すんませんもう一枚買うのでお願いしますと、割り切ることにしてます(割り切れないほどに腹の立つ局もごくたまにあるのですが)。
これまでかなりの数の局を回りましたが、ひどかった局もありました。でも最近の印象としては、前に比べて一生懸命押してくれる局員さんが増えて、うれしくなることが多いです。
>中村さま
お読みくださりありがとうございます。直接クレームを言うのではなく、「もう一枚買うのでお願いします」と言うほうが、残念に思う気持ちが伝わりそうですね!(局員さんにはプレッシャーかもしれませんが……)
かなりの数の局を回られたとのこと、さすがベテランさんは違いますね。私も見習って、次から使ってみたいと思います(^^)
収集をはじめてまだ一週間目です。
たくさんの情報、これから足繁く通いたいと思っています!
押してもらう側としては、
きれいな印影、鮮明な印影がほしいと本当に切実に思います。
目の前で押していただくときには、
「おまかせします―」とは言いながら、
ガン見してプレッシャーを。
まだ、30位しか回れていない、少ない実体験ではありますが、
まさに達人技!と感動した件があります。
お願いして、すこしおまちください~ フムフム。
バンバンバンッ と インクを付ける音がしたあと
スタンプだけ持ち「どんな感じに押しましょう?」って。
押して欲しい位置を説明したら、
試し押無しでバチコーン!!一発一撃!!
マジめっちゃ、エクセレント!
鮮明できれいな印でしたww
(10/19 に 大阪築港 で押してもらいました)
目の前できれいに「印」をいただけたときには、
嬉しさ・お礼を出来るだけ伝えるようにはしていますヽ(*´ー`)ノ
>Aquiさま
コメントありがとうございます。収集を始めて一週間で30くらいとはすごいペースですね! 私なんかすぐ追い越されてしまいそうです。きれいに押してくださったときは、思わずうれしさを伝えてしまいますよね(^^) 気が向いたときにしか更新してないブログですが、ぜひまたいらしてください!
風景印収集の初心者です。仰る通りで、うんうんと思いました。特に印面の摩耗については何とかならないのかという局が多いのに驚きます。ご指摘のように局名が読めないものさえあります。さらに問題なのは、風景印の意匠について局員が無知なことです。意匠についての一次情報になるべき説明が当該郵便局では聞けず、民間の出版物で調べるとは、なんという事態なのでしょうか。少なくともスタンプの収納箱に説明文を貼付しておくぐらいができないのでしょうか。
お教えいただきたいことがあります。スタンプを作り変えた局に関する情報交換のサイトがあるそうです。ご存知でしたら、URLをお教え下さい。
>長谷川さま
コメントありがとうございます。「申請しているんですがなかなか予算がおりなくて……」とおっしゃっていた局員さんもいらっしゃいましたので、それぞれの局で都合があるんだとは思います。最近はパートさんも多いようなので、風景印について全員が知っているというのは難しい面もあるのでしょう。「情報交換のサイト」ですが、残念ながら私は存じ上げないのです。。。もしわかりましたら私も知りたいです!
お返事をありがとうございました。皆様ご存知でしょうが、収納者の便を図ってくれている局もあります:(1)国分市内の特定局では、全局の意匠説明文と地図を掲載した収印用紙を用意しています、(2)東京府中市では国分寺市似たような用紙を用意しています、(3)埼玉県秩父市と横瀬町の特定局も同様の案内文を持っています。ほかの地区にもあると思いますので、情報交換できれば、幸いです。
>長谷川さま
私もとりあえず聞いてみるようにしています。聞かなくても「最初に作ったときの説明用紙があるのでよかったらどうぞ!」と言われることがたまにありますが、うれしいですよね。せっかく作った風景印ですから、ぜひ局でそうした取り組みをしてもらえたらなと思っています。
小さな局では自分で押したいと言えば押させてくれる局もあります(本当はいけないのでしょうが)。
日本郵趣協会の押印技能1級になれば、臨時出張所などでボランティアスタッフとして押印担当者になれるのと同時に、局で自分で押印が堂々とできるので、それを目指すのもいいかもしれません。自分で何度も失敗して局員の方々の苦労をわかってあげてあげると良いかもしれません。最近では依頼者のクレームが多くてストレスで身体を壊したり風景印の廃止を考えている局もあるとのこと、押印技能検定の講習中に聞きずいぶん大変だと思い知られました。
押印技能講習、私も興味があるのですが仕事で参加できない日程なので残念です。押印用の切手もはがきも全部用意してきてその局には1円も落とさず、押印だけさせられたあげくクレームつけられたら、正直やってられないでしょうね。サービスとわかってはいても、ストレスで心身に異常をきたすほどでは、もう限界でしょう。一部の無神経なマニアのおかげで、風景印廃止なんて悲しいですね。